Bitters End
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『ハーフェズ ペルシャの詩』
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BITTERS END

<ハーフェズについて>


詩人ハーフェズ
Hafez Shirazi; Shams al-Din Muhammad ibn Muhammad
(1326?-90頃)

まず、本作『ハーフェズ ペルシャの詩』とペルシャ古典詩人ハーフェズとは、ほぼ別物であるとお考えいただきたい。本作の主な撮影地はパキスタンに近いイラン南部、古くからの悪しき慣習が残るとイラン政府から批判の声が上がるほど、21世紀から取り残された地域である。しかし、詩人ハーフェズが生まれ育った古都シーラーズは、美しい庭園や建築に彩られたバラと詩の町である。確かに、詩人の本名は本作の主人公と同じシャムスッディーン・ムハンマドであり、この映画の主人公同様コーランを記憶していたため、雅号を「ハーフェズ」と称した。また、「ハーフェズ」には「美声でコーランを朗唱する者」という意味もあるが、詩人ハーフェズは実際にコーランを美声で暗唱したという。通常「ハージェ(偉才)・ハーフェズ」と称されることからもわかるように、ペルシャ語圏ではハーフェズという詩人自身もそのガザル(註)も一種「聖なる存在」として、人々の日常に深く根ざしている。
詩人ハーフェズは青年期にファールス州を支配したインジュー家のアブー・イスハークに、壮年期にはムザッファル朝のシャー・シュジャーに仕え、恋と酒と自然の美などを主題とする多くのガザルを詠い、民衆に広く愛された。ハーフェズの詩の主題は「愛」であるが、読者がその時に置かれている状況に応じて俗世の愛とも神への愛とも解釈可能なガザルを500近くも残している。死後に編まれた『ハーフェズ詩集』は東西に影響を与え、ゲーテもハーフェズの詩に感銘を受け「同じ魂の形」と呼び、『西東詩集』が生まれた。ハーフェズは現代においても、ペルシャ古典詩人の中では最も有名で親しまれている詩人のひとりで、「コーランなくとも各家庭にはハーフェズ詩集がある」とまで言われ、街中ではあちこちで「ハーフェズ占い」を目にする。


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ハーフェズの恋人の名が「シャーヘ・ナバート」であるという逸話が、本映画の制作になんらかの影響を与えたことは確かである。あくまでも単なる参考として、ここに簡単にその逸話を紹介しておきたい。
 ハーフェズは「シャーヘ・ナバート」という名の娘に恋したが、貧しさのため結婚できず、木曜の夜(日本の土曜の夜にあたる)毎に聖廟に出かけ徹夜をし、40夜にも及ぶ願掛けをした。40夜目、当時はまだ読み書きもままならなかったハーフェズが疲れてうとうとしていると、夢枕にイマーム・アリーが現れ、「そなたはコーランの朗唱者になり、見事な詩を語るようになるだろう」と言った。すなわち、目に見えない宝(神)への扉が開かれ、彼は瞬時にありとあらゆる学問・神秘主義の最高レベルに達したのである。そして、ハーフェズは目覚めるとすぐに即興で次のガザルを作ったという。


昨夜明け方に私は悲しみから解き放たれ

夜の暗闇のなかで
生命の水(アーベ・ハヤート)を授けられた

恋人の光の輝きにわれを忘れ

恵みの栄光の酒杯から酒が与えられた

なんと祝福された暁、なんとめでたい一夜

あの運命(カダル)の夜に
この新たな約束がなされた

これからは私は美を映す鏡に向かい

恋人のまばゆいばかりの美が私に知らされる

私が望みを遂げ喜んだとて不思議があろうか

私はそれにふさわしく、
それは喜捨(ザカート)として与えられた

あの日神秘の声がこの吉報を伝えた

私にはあの虐げに
耐え忍ぶ力が授けられたのだと

わが言葉から滴るこの蜜と砂糖はすべて

忍耐の賜物、そのために
シャーヘ・ナバートが授けられた

私が日々の悲哀の枷から解かれたのは
ハーフェズの熱望と
敬虔な人々の息吹のおかげ


逸話によれば、これが詩人ハーフェズの最初のガザルということになる。しかし、ハーフェズが当時の学問に精通していたことは諸文献により明らかであり、それまでは単なる下手の横好きであり夢から覚めて突然流麗な詩をうたったとするこの説は、現在では研究者には支持されていない。ただ、詩人ハーフェズのガザルがこうした奇跡譚を生み出すほど卓越していると評価されたことが重要だといえよう。また、このガザルに登場する「シャーヘ・ナバート」は固有名詞ではなく、「シャーヘイェ・ナバート」という枝状(シャーヘ)の砂糖菓子(ナバート)をさし、これを恋人の隠喩として用いたという解釈も成り立つ。さらに、別のガザルでは、ハーフェズは自らの筆をこの「シャーヘ・ナバート」に喩え、いかに自らの編み出す詩句が甘美であるかを示してもいる。

(註)ガザル=抒情詩