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2021年1月22日(金)シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー!
チベットの大草原。牧畜をしながら暮らす、祖父・若夫婦・3人の息子の三世代の家族。昔ながらの素朴で穏やかな生活を送っていたが、近代化は進み中国の一人っ子政策の波が押し寄せていた。そんなある日、母・ドルカルの妊娠が発覚する。喜ぶ周囲をよそに、思わぬことで母の心は揺れ動く。伝統的な信仰と変わりゆく社会の狭間に立たされ、次第にすれ違う家族―葛藤の末、彼女が選んだ道とは…
時代に翻弄されながらもひたむきに生きる家族を、時にユーモアを込めて紡ぎ、広大な草原、猛々しい羊たち、厳しい土地で生きる人間のたくましさを圧倒的な映像美をもって映し出した、心揺さぶられる人間ドラマが誕生した。
監督は、作家としても高い実績をもつ、チベット映画の先駆者 ペマ・ツェテン。故郷・チベットの市井の人々に寄り添う眼差しで作品を生み出し、これまでに国内外の映画祭で40以上の賞を受賞。イランの名匠アッバス・キアロスタミや中国のウォン・カーウァイも、その才能に惚れ込み高く評価した。本作もヴェネチア国際映画祭をはじめ、世界中の映画祭に出品され「小説を読むかのような豊かなタペストリー、なかなかこんな映画には出会えない!」(Asian Movie Pulse)「賢明で、叙情的なユーモアに満ちている」(FIVE FLAVOURS)など絶賛評が並んだ。そして、もはや常連となった東京フィルメックスでは、その高いクオリティと 詩的な世界観が評価され、「オールド・ドッグ」(11)、「タルロ」(15)に続き、審査員満場一致で3度目の最優秀作品賞に輝いた。本作が、待望の日本劇場初公開作品となる!
神秘の地 ・ チベットの大草原で暮らす三世代の家族。
祖父は変わりゆく時代を憂いながらお経を唱え、若夫婦は3人の息子たちを養うため牧畜をして生計を立てている。いたずら盛りの子どもたちは、のびのびと大草原を駆け抜けている。昔から続く、慎ましくも穏やかな日々。しかし、受け継がれてきた伝統や価値観は近代化によって変わり始め、中国の一人っ子政策の波が押し寄せていた。そんなある日、母・ドルカルの妊娠が発覚する。喜ぶ周囲をよそに、望まぬ妊娠に母の心は揺れ動く。伝統的な信仰と変わりゆく社会の狭間に立たされ、次第にすれ違う家族―葛藤の末、彼女が選んだ道とは…
Photo by Gao Yuan
チベットの監督・脚本家・作家。1969年、中国青海省海南チベット族自治州貴徳県に生まれる。91年、西北民族学院に入学し、在学中に小説家デビュー。「誘惑」「死の色」「タルロ」など、チベット語と中国語で出版され、国内外で数々の文学賞を受賞。英語、フランス語、ドイツ語、日本語、チェコ語、韓国語にも翻訳される。02年には北京電影学院に入学し、文学部で映画脚本と監督学を学び映画製作を始める。故郷の人々の生活に深く迫り、リアルで綿密な描写によって、チベットの「今」を浮き彫りにする作品を次々と発表し、イランの名匠アッバス・キアロスタミや、中国のウォン・カーウァイから賞賛されるなど、高い評価を受ける。主な作品に、「静かなるマニ石」(05)、「ティメー・クンデンを探して」(09)、「オールド・ドッグ」(11)、「タルロ」(15)、「轢き殺された羊」(18)など。ヴェネチア国際映画祭、ロカルノ国際映画祭、トロント国際映画祭など主要な国際映画祭にてノミネート、作品賞、監督賞、脚色賞など 40以上の国内外の賞を受賞している。前作「轢き殺された羊」(18)は第75回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で脚本賞を受賞している。また東京フィルメックスの常連としても知られており、これまで4作品が上映され『羊飼いと風船』で、見事3度目の最優秀作品賞に輝いた。
【フィルモグラフィー】
2004 草原(短編)
2005 最後の防雹師(TVドキュメンタリー)
2005 静かなるマニ石
2008 1983年、パンタロンは風にはためく
2009 ティメー・クンデンを探して
2010 千年の菩薩道 サムイェ寺 パドマサンバヴァの足跡(TVドキュメンタリーシリーズの1作)
2011 オールド・ドッグ
2014 五色の矢
2015 タルロ
2018 轢き殺された羊
2019 羊飼いと風船
『羊飼いと風船』は 現実と魂の関係性を探究しています。
チベットの人々は肉体のみが滅び、魂は生き続けると信じています。
仏教の信仰が現代社会と衝突している今、人々は選択を迫られています。
―この映画の着想はどのように得たのですか?
私の意図はシンプルでした。ある日、道を歩いているときに風船が風で浮かんでいるのをみつけました。そこから着想を得て、物語のフレームワークを書き下ろしていきました。そして、すぐに脚本として完成させました。
私は魂と現実の関係性を探究してみたいと思っていました。チベットの人々は人間の魂を不滅のものとして崇め、生まれ変わり(輪廻転生)を信じています。魂が現実と衝突を起こした場面での人間の困難についての物 語を語りたいと思いました。イメージを見て、アイデアを得て、物語が次第に形作られていきました。そして、これは映画にとって素晴らしいテーマになると思ったので、それを脚本として書いていきました。しかし、脚本を北京の検閲に持っていったところ、許諾を得ることができませんでした。おそらくプロットがあまりに直接的な内容だったからだと思います。これではいつまで経っても映画にすることはできないかもしれないと気がつき、私はこれを小説にしました。小説としては、この物語は非常に豊かなものになりました。ある程度の間、寝かせ、いくつか修正を加え、より繊細な脚本にしました。そして再度検閲に持っていったところ無事に通り、最終的に映画を完成させました。
―本作は、チベットの家族たちの貧困と、チベットの女性たちによる伝統的な出産に対しての考えへの反逆の2つを含んでいます。現実の宗教とジェンダーの影響力と状況についてどのようにお考えですか?
今日、ほとんどのチベットの女性たちは伝統的な生活を営み、伝統的な役割を果たしています。彼女たちは信仰を持ち続け、全ての苦労に耐えています。目を覚まし始め、新しい習慣との軋轢の中における彼女たちの困難を想像するのは、難しくはない作業でした。
―この映画は観客にゆだねたラストだと感じました。なぜそのような選択をしたのでしょうか?
物語が流れる中で自然と終わりを迎えました。この結末は、私や多くのチベットの人々によって共有されている困難を乗り越えられることへの希望を表しているのだと思います。
―撮影地について教えてください。
ほとんどのシーンは、青海湖の近くで撮影され、いくつかは私の故郷で撮影しました。ロケーションによって、物語の雰囲気や土地の文化や習慣を伝えています。
―小説の執筆は映画製作に影響を与えていますか?
もちろんです。私の小説執筆の経験は多くの側面で私の映画を豊かにする手助けをしています。文字の言語と、視覚・聴覚の言語は、2つの異なった表現の仕組みです。それぞれが独自の特徴を持っていると思います。
チベットの舞台俳優。07年に上海演劇学院を卒業。10 年から映画のキャリアをスタートさせ る。主な作品に、「Soul on a String」( 17/チャン・ヤン監督)、ペマ・ツェテン監督の「轢き殺された羊」(18)などがある。
詩人としても活躍するチベット人俳優。北京電影学院で演技を学ぶ。14年以降、数々の映画に出演。「Soul on a String」(17/チャン・ヤン監督)に主演し、台湾の金馬奨の新人俳優賞にノミネートされる。ペマ・ツェテン監督作品は、「タルロ」(15)、「轢き殺された羊」(18)に続き3度目 の参加。そのほかに、「ワンダクの雨靴」(18/ ラホワジャ監督) や、日本でも劇場公開した『巡礼の約束』(18/ソンタルジャ監督 ) に出演。常に強い印象を残し、高い評価を集めている。
幼少期から音楽とダンスを学ぶ。14年から17年まで北京でテレビや映画の演出を学んだ後、歌手 や俳優として活躍している。ペマ・ツェテン監督の「静かなるマニ石」(05)、「タルロ」(15)などに出演。
中国生まれ。サンクトペテルブルク州立映画テレビ大学で映画撮影を学び、08年に卒業。10年から中国のフルンボイル大学で映画撮影を教える。主な映画作品に、第52回台湾金馬奨で最優秀撮影賞にノミネートされた「タルロ」(15/ペマ・ツェテン監督)、「ワンダクの雨靴」(18/ラホワジャ監督)、「轢き殺された羊」(18/ペマ・ツェテン監督)などがある。
テヘラン生まれのピアニスト、作曲家。
6歳でピアノを始める。これまで 40 以上のソロ・ピアノ作品を作曲し、国内外の映画の音楽も多く制作、演劇などのオリジナル・サウンドトラックも手掛ける。主な映画作品に『風が吹くまま』(99/アッバス・ キアロスタミ監督)、『クリムゾン・ゴールド』(03/ジャファル・パナヒ監督)、『天安門、恋人たち』(08/ロウ・イエ監督)、『二重生活』(15/ロウ・イエ監督)などがある。
彼の作品には心から感動を覚える。カメラワークが、スタイルが好きだ。
アッバス・キアロスタミ
映画監督
ペマ・ツェテンは、現代において重要な監督の一人だ。
ウォン・カーウァイ
映画監督
優しくて厳しくて神秘的で、そしてそこはかとなくユーモラスな家族の姿を、
遙か遠い国のチベットの監督が鮮やかに描いた。
山田洋次
映画監督
伝統と近代化、宗教と政策の交差。そして、生と死が備えた、ある種のもどかしさ。
人はいつだって、なにかの狭間に生きている。
ヨシダナギ
フォトグラファー
異国の村のくらし
悲しくて優しい、異国のある村の羊飼いの一家に流れる時間を見つめていたい。
赤い風船がつなぐこんな静かな愛のかたちがあることを、ぼくは忘れていた。
新井敏記
SWITCH/Coyote編集長
空へ吸い込まれていく赤い風船を見たとき、
心が共に、天に釣り上げられ、気づくとわたしは泣いていました。
小池昌代
詩人・作家
「チベット映画って観たことない」という不安は、始まってものの数分で氷解した。
いつの時代もどこの国にもいる家族と、犠牲を強いられる性の物語だった。
人間と羊に違いはあるのか。少なくとも、女と羊にはない。
ここ数年観た映画の中で、もっとも美しいラストシーン。『ROMA/ローマ』級の感動。
涙が溢れるのを止められなかった。
樋口毅宏
作家
生と死と、性のあわいに、風船が揺れる。だれもがもてあそばれる。
やがて壊れて、空の高みへ。羊と人と、性食の詩学のかなたへ。
赤坂憲雄
民俗学者
伝統と信仰、新しい制度と習慣が混じり合う日々のなかで、
女性の体が負担を強いられることもまた"日常"になっていることについて、考えずにはいられない。
松田青子
作家
生きるとは、変わっていくこと。
変わっていく女(妻)と、変われない男(夫)。この家族の未来を、心から応援したくなる!
たかのてるこ
旅人・エッセイスト
その手触りは清水宏作品の風景と似ている。
写実的な朴訥さは一見優しさを孕んでいるが、信仰と文化に挟まれて立ち往生する
チベット人の懊悩が根底にはずっと流れている。美しくも険しい映画だ。
向井康介
脚本家
ユーモアも厳しさも、大らかさも切なさも詰まった生活賛歌。
小説家として監督として、優しく鋭い眼差しを持ったペマ・ツェテンの描写力に感服。
瀧井朝世
ライター
大地や羊とともに生き、変わらない暮らしをする人たちは、永久に変わらないままでいて欲しい——こちら側が勝手に抱くロマンは、ゆるやかに冷水に沈められていく。「変わらないでどう生きろというのか」という反発と「変わった果てにいいことなんてあるのか」という懐疑がせめぎ合い、映画を観終わってしばらくたっても、答えが出ない。青く広い空の沈黙が、苦しい。実に、映画を観終わった後らしい苦しさ。
西川美和
映画監督
「世界は変わったのに君たちは変わらないな」という台詞が心に残った。
長年積み上げてきた伝統的な暮らしや文化や価値観は、時の流れに逆らうことは難しい。変わった人、変わろうとする人、変われない人。儚く脆い人びとの心は、風船のように宙を舞い、どこへ流れてゆくのだろうか。
林紗代香
TRANSIT編集長
チベットに豊饒な映画文化を築き上げたペマ・ツェテンの作品が遂に劇場公開される。一つの家族を媒介にチベットの伝統文化と近代化の相克を見事に描いた『羊飼いと風船』は今最も見られるべき傑作だ。
市山尚三
東京フィルメックス ディレクター
日本とチベットでは、生き物と人、人と人とのかかわり方が大きく違う。
しかし、変わりゆく社会のなかでそれらを繋げ、維持していく難しさや大切さは、文化を越えて我々に伝わってくる。
池谷和信
国立民族学博物館 (人類文明誌研究部) 教授
 懐かしい草原の風景。羊たちのベェ〜ベェ〜鳴く声や、吹いてくる風が感じられる。そしておじいちゃんが鞣している皮の匂いも、鼻腔をくすぐる。草の豊かなアムドの牧畜民の暮らしの中で、馬がバイクに変わっていったあの頃を、私は思い出していた。「馬は自分で草を探して食べるから金もかからないが、鉄の馬は人間が奴の腹の中に餌を詰めてやらないとならないから、金も手間もかかる」とぼやく声も聞いていた。
 そんなことを思い出しながら奇妙な風船で遊ぶ少年の姿をニンマリと見ていたら、スクリーンには“チベットの今”が深く抉り出されてきたのだった。ペマ・ツェテン監督は、伝統的な暮らしの中で育まれてきた習慣や思考が、現代の社会体制の中で新たな歩み方を模索している様を描き出した。
 少年の手から離れた赤い風船が、たゆたいながら青い空に吸い込まれていくのをじっと見つめる彼らと共に、私もその先へ想いを馳せる。
渡辺一枝
作家
敬称略・順不同
繊細で遊び心があって、少し神秘的な作品。
Hollywood Reporter
愛、死、生まれ変わり、羊―それらが詩的で哲学的に融合している。
SCREEN DAILY
小説を読むかのような豊かなタペストリー。なかなかこんな映画には出会えない!
映画という言語を発明し続けるペマ・ツェテンの新たな傑作。
Asian Movie Pulse
風と生命、揺れる光、散らばる羊に溢れたイメージ、ペイマン・ヤズダニアンの心揺さぶる音楽、リュー・ソンイエの手持ちカメラによる撮影。それらが驚きと発明に満ちている。
信仰、迷信、偏見による目に見えない絆が、家族を引き裂き、また結びつける。
その矛盾は「マグノリア」のような美しいシークエンスであり、それぞれの場所から登場人物が空を見上げる視点で一つに結ばれていく姿は、監督の精神的な兄弟であるホウ・シャオシェンを思わせる。
Variety
必見!
Film Inquiry
監督は感情や視点を効果的に映画に取り入れる方法を熟知している。
IN THE SEATS
繊細で思慮深い、チベットのドラマ。決して説教的ではなく、政治的な方向性を尖らせることもない。代わりに監督は冷静で慈悲深い観察者であることを選び、表現力豊かな手腕によって、どんなに異国情緒溢れる状況であっても私たちは登場人物たちと一緒でいることができる。
The Film Stage
賢明で、叙情的なユーモアに満ちている。ペマ・ツェテンは再び、彼の故郷にしっかりと根付い た伝統と、そこに住む人々の仏教的なメンタリティをレンズに収めることに成功した。
彼が焦点を当てるのは、普通の人々の重要な選択についての魅力的な物語。
そして、撮影監督のリュー・ソンイエが再び魔法のような撮影を見せてくれる。
FIVE FLAVOURS