【松ヶ根乱射事件】ホームへ
鈴木光太郎は事件らしい事件が起きないこの町で警察官をしている。光太郎の双子の兄・光は家の畜産業を気まぐれに手伝っている。ふたりの父親・豊道はダラダラした生活と性格が災いしてなんとなく自宅に居辛くなり、家出中。母は父を怒るでもなく放置したまま。モテるためには30万を迷わず出す幼馴染、頼まれればすぐに下着を脱いでしまう娘……。この町にはどこにでもいるような、でもちょっとおかしな住民が住んでいる。
ある日、どうも訳アリなカップル・西岡佑二と池内みゆきが松ヶ根へやってくる。ひき逃げ、金塊、ゆすり、床屋の娘の妊娠……彼らの来訪をきっかけに、この町のバランスは微妙に崩れ始める……。
『リンダ リンダ リンダ』で女子高生の青春を描いた山下敦弘が次なる題材に選んだのは田舎町でくすぶる20代男子の物語。本作では90年代初頭の田舎町を舞台に、双子の兄弟の葛藤と現代に通じる少しおかしな日本人像を、まざまざと描き出した。ユーモラスかつスリリングな展開に1秒たりとも目が離せない!
山下の二十代最後の作品となった『松ヶ根乱射事件』。山下敦弘の集大成であり、最高傑作がここに誕生した。
主人公・光太郎を演じたのは、『ゲルマニウムの夜』につづき主演二作目の新井浩文。崔洋一、犬童一心、行定勲、松岡錠司、豊田利晃など、名高い監督たちからの指名を次々に受けつづけ、今や日本映画界に欠かせない俳優となった。本作では律儀な印象で親近感を感じさせると同時に、ふいに見せる不気味な視線にドキッとさせられる。双子の兄・光には、これまで舞台を中心に活躍してきた山中崇。自堕落ではあるがどこか憎めない人間として、物語の繊細さと複雑さを全身で一心に語りかけている。ふたりの父親を演じた三浦友和は“ダメ男”をいきいきと演じ、謎めいた確信者として映画に君臨している。また、近年映画界からのオファーが絶えない木村祐一が、町に突如現われる男をコミカルに、リズミカルに演じきり、松ヶ根の町を笑いとスリルでかき回せば、木村と絶妙なコンビネーションをみせた川越美和が、独特の間とセリフまわしで異彩を放つ。そのほか、キムラ緑子、烏丸せつこ、西尾まり、安藤玉恵、康すおん……と、脇を固める俳優陣も個性派が勢揃いし、田舎町の奇妙な空間を見事に彩っている。
これまでに、赤犬、くるり、James Ihaがその映画音楽を担当するなど、デビュー当時から音楽にもこだわりをみせてきた山下敦弘は、本作では14人編成のアコースティック・オーケストラ・バンドの「パスカルズ」とタッグを組んだ。バイオリン、ピアニカ、ウクレレのほか、オモチャの楽器も多用し築きあげた音楽はニュートラル且つ遊び心にも富み、本作のユーモアにさらなる解放感を与えている。また、エンディング曲として使用されているボアダムスの楽曲「モレシコ」は、まさに90年代初頭に発売されたアルバム『POP TATARI』からのエントリー。運命的マッチングは、ラストシーンの後にも用意されている。