Introduction

ある日は時代劇で斬られ、
ある日は弓で射られ、
ある日は凶弾に倒れ……
記憶喪失の男、宮松はなぜ名もない人物を毎日演じ、
毎日死に続けるのか。

宮松は端役専門のエキストラ俳優。来る日も来る日も、名もなき登場人物を生真面目に演じ、斬られ、射られ、撃たれ、画面の端に消えていく。真面目に殺され続ける宮松の生活は、派手さはないけれども慎ましく静かな日々。そんな宮松だが、実は彼には過去の記憶がなかった。

なにが好きだったのか、どこで何をしていたのか、自分が何者だったのか。
なにも思い出せない中、彼は毎日数ページだけ渡される「主人公ではない人生」を演じ続ける。
ある日、宮松の元へある男が訪ねてくる……。

日本を代表する映画俳優 香川照之、
単独主演作で演じるのはエキストラ!
さらに、
津田寛治、尾美としのり、
中越典子ら名優たちが集結!

各分野で八面六臂の活躍を続ける香川照之が、ポン・ジュノ監督作品『TOKYO!〈シェイキング東京〉』、黒沢清監督作品『トウキョウソナタ』に主演した2008年以来の単独主演作品として選んだ『宮松と山下』。常に圧倒的な存在感を見せてきた香川が本作で挑んだのは、エキストラ俳優・宮松。日替わりどころか分刻みで端役を演じる記憶を失った男を、繊細に複雑に演じ切った。その実体感ある人物造形は、他の追随を許さぬ、香川ならではの境地だ。香川を支える共演者たちも実力派が揃った。津田寛治、尾美としのり、中越典子らが、口数の少ない宮松の謎に包まれた現在と過去を展開し、観客の目をくぎ付けにする。

カンヌ短編部門、サンセバスチャン、クレルモン・フェランなど、結成以来、
数々の国際映画祭で招待上映され続ける監督集団「5月」による長編デビュー作。

“新しい手法が生む新しい映像体験”を標榜し、過去に2本の短編映画が
カンヌ国際映画祭から正式招待された監督集団「5月」。
数多くの名作CMや教育番組「ピタゴラスイッチ」を手掛けてきた東京藝術大学名誉教授・佐藤雅彦、
NHKでドラマ演出を行ってきた関友太郎、多岐にわたりメディアデザインを手掛ける平瀬謙太朗の3人からなる
「5月」による初長編監督作品が『宮松と山下』だ。日本において、オムニバスではない
共同監督作品は非常に珍しい。類まれなる才能が文字通り集結し、生み出したのはこれまでにない
映像体験を伴う物語。観客は次に何が起こるのか予測不能な映像迷路を彷徨いながら、
ラストシーンにたどり着き、香川照之の微かに変化していく表情に胸をつかまれるのだ。

Story

昨日までの自分を失ったら、
何を演じたら良いのだろう。

宮松は端役専門のエキストラ俳優。
ロープウェイの仕事も掛け持ちしている。
時代劇で大勢のエキストラとともに、砂埃をあげながら駆けていく宮松。
ヤクザのひとりとして銃を構える宮松。
ビアガーデンでサラリーマンの同僚と酒を酌み交わす宮松。
来る日も来る日も、斬られ、撃たれ、射られ、時に笑い、そして画面の端に消えていく。
そんな宮松には過去の記憶がなかった。

ある日、谷という男が宮松を訪ねてきた。
宮松はかつてタクシー運転手をしていたらしい。
藍という12歳ほど年下の妹がいるという。
藍とその夫・健一郎との共同生活が始まる。
自分の家と思えない家にある、かつて宮松の手に触れたはずのもの。
宮松の脳裏をなにかがよぎっていく・・・。

Director

監督・脚本・編集:監督集団「5月」gogatsu

「手法がテーマを担う」という言葉を標榜し、新しい表現の開拓を目指す映画・映像の監督集団。
2012年 東京藝術大学大学院 佐藤雅彦研究室から生まれた映画制作プロジェクト「c-project」として活動を開始。
初作品となる短編映画『八芳園』(14)がカンヌ国際映画祭短編コンペティション部門から正式招待。
続く短編映画『どちらを』(18/主演・黒木華)にて、再びカンヌ国際映画祭短編コンペティション部門から正式招待。
20年、監督集団「5月」発足。その後、短編映画『散髪』(21/主演・市川実日子)がクレルモン・フェラン短編映画祭から正式招待。
初の長編映画である本作『宮松と山下』(主演・香川照之)がサンセバスチャン国際映画祭New Directors部門に正式招待された。

関 友太郎

Yutaro Seki

1987年、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科修士課程修了。在学中、佐藤雅彦研究室に所属し映像制作を学ぶ。2012年、NHKに入局。主にドラマ番組の演出業務に携わる。20年から監督集団「5月」のディレクターとして、映画やドラマをはじめとした映像作品の監督を務める。12年、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品選定、13年、イメージフォーラムフェスティバル優秀賞、17年、東京ドラマアウォード・ローカルドラマ賞受賞。

佐藤 雅彦

Masahiko Sato

1954年、静岡県生まれ。東京大学教育学部卒業後、電通を経て、94年、企画事務所「TOPICS」設立。99年より慶應義塾大学環境情報学部教授。2005年からは東京藝術大学大学院映像研究科教授。現在は東京藝術大学名誉教授を務める。著書に『佐藤雅彦全仕事』、『経済ってそういうことだったのか会議』、他にゲームソフト『I.Q』などがあるNHK・Eテレの大ヒット作『だんご3兄弟』では作詞と企画を務め、同局の人気番組『ピタゴラスイッチ』『2355』『0655』の企画・監修を担っている。07年、ニューヨークADC賞金賞、11年、日本数学会出版賞・芸術選奨、13年、紫綬褒章、19年、文化庁メディア芸術祭 エンターテイメント部門大賞受賞。

平瀬 謙太朗

Kentaro Hirase

1986年、サンフランシスコ生まれ。慶応義塾大学SFC脇田玲研究室卒業。その後、東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修士課程修了。在学中、佐藤雅彦研究室に所属しメディアデザインを専攻。2013年、デザインスタジオ「CANOPUS」設立。20年、監督集団「5月」発足。メディアデザインを活動の軸として、映像・映画・デジタルコンテンツ・グラフィック・プロダクトなど、様々なメディアにおける新しい表現を模索している。12年、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品選定、17年、朝日広告賞 準朝日広告賞、20年、映文連アワード コーポレート・コミュニケーション部門優秀賞受賞。脚本に参加した川村元気監督作品『百花』が公開中。

Cast

宮松:香川 照之Teruyuki Kagawa

1965年12月7日、東京都出身。大河ドラマ「春日局」(89/NHK)で俳優デビュー。『赤い月』(04/降旗康男監督)、『北の零年』(05/行定勲監督)、『ゆれる』(06/西川美和監督)、『キサラギ』(07/佐藤祐市監督)にて日本アカデミー賞優秀助演男優賞受賞、『剣岳点の記』(09/木村大作監督)で第33回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。『宮松と山下』は2008年の『TOKYO!〈シェイキング東京〉』(ポン・ジュノ監督)、『トウキョウソナタ』(黒沢清監督)以来の単独主演作品。

健一郎:津田 寛治Kanji Tsuda

1965年8月27日、福井県出身。『ソナチネ』(93/北野武監督)で映画デビュー。
以降、数多くの映画やテレビドラマ、舞台、声優、監督、脚本家など幅広い分野で活躍。『山中静夫氏の尊厳死』(19/村橋明郎監督)で第30回日本映画批評家大賞主演男優賞受賞。近年の主な出演作は『ONODA 一万夜を越えて』(21/アルチュール・アラリ監督)、『西成ゴローの四億円』(22/上西雄大監督)、『ニワトリ☆フェニックス』(22/かなた狼監督)、ROMAN PORNO NOW第1弾『手』(22/松居大悟監督)など。『おしょりん』(23/児玉宜久監督)の公開が控えている。

谷:尾美 としのりToshinori Omi

1965年12月7日、東京都出身。『火の鳥』(78/市川崑監督)で映画デビュー。『転校生』(82/大林宣彦監督)で第6回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。以降、大林監督作品のほか、映画やドラマで活躍。本年公開作として『ウエディング・ハイ』(22/大九明子監督)、『とんび』(22/瀬々敬久監督)などに出演。また、『マイ・ブロークン・マリコ』(22/タナダユキ監督)、『土を喰らう十二ヵ月』(22/中江裕司監督)の公開が控えている。

藍:中越 典子Noriko Nakagoshi

1979年12月31日、佐賀県出身。連続テレビ小説「こころ」(03/NHK)でヒロインを演じ、注目を集める。その後、数々のドラマ、映画、舞台、CMで活躍。近年の主な出演作に映画『関ヶ原』(17/原田眞人監督)、『それぞれ、たまゆら』(20/土田英生監督)、ドラマ「特捜9」シリーズ(06-22/EX)、「必殺仕事人」シリーズ(07‐22/EX)、連続ドラマW「雨に消えた向日葵」(22/WOWOW)、CM「スペーシア」などがある。

里帆:野波 麻帆Maho Nonami

1980年5月13日、東京都出身。第4回「東宝シンデレラ」グランプリ受賞。
『モスラ2 海底の大決戦』(97/三好邦夫監督)で映画デビュー。『愛を乞うひと』(98/平山秀幸監督)で第22回日本アカデミー賞新人賞・助演女優賞など数々の賞を受賞。以降、多くの映画やテレビドラマ、舞台など幅広く活躍。近年の主な出演作に映画『浅田家!』(20/中野量太監督)、『今夜、世界からこの恋が消えても』(22/三木孝浩監督)、ドラマ「婚姻届に判を捺しただけですが」(21/TBS)「おいハンサム!!」(22/THK)などがある。

潮田:大鶴 義丹Gitan Otsuru

1968年4月24日、東京都出身。『首都高速トライアル』(88/金澤克次監督)で本格映画デビュー。
以降、映画やテレビドラマ、舞台、さらに映画監督、小説家としても活躍。近年の主な出演作に『ウスケボーイズ』(18/柿崎ゆうじ監督)、『日本独立』(20/伊藤俊也監督)、『めぐみへの誓い』(21/野伏翔監督)、ドラマ「ゴシップ #彼女が知りたい本当の〇〇」(22/CX)などがある。今年は『シグナチャー~日本を世界の銘醸地に~』(22/柿崎ゆうじ監督)の公開が控える。

國本:尾上 寛之Hiroyuki Onoue

1985年7月16日、大阪府出身。NHK連続テレビ小説「ぴあの」(94)でデビュー。以降、数々の映画やテレビドラマに出演。近年の主な出演作に映画『葬式の名人』(19/樋口尚文監督)、『罪の声』(20/土井裕泰監督)、『スパゲティコード・ラブ』(21/丸山健志監督)、『浅草キッド』(21/劇団ひとり監督)、ドラマ「海の見える理髪店」(22/NHKBSP)、「だれかに話したくなる山本周五郎日替わりドラマ2『ゆうれい貸屋』」(22/NHKBSP)などがある。

初老の男:諏訪 太朗Taro Suwa

1954年8月9日、東京都出身。自主映画を経て、『九月の冗談クラブバンド』(82/長崎俊一監督)でデビュー。
以降、数々の映画やテレビドラマで名バイプレイヤーとして活躍。主な出演作に『シン・ゴジラ』(16/庵野秀明監督)、『ろんぐ、ぐっどばい』(17/いまおかしんじ監督)、『貞子』(19/中田秀夫監督)、『シライサン』(20/安達寛高監督)、『痛くない死に方』(21/高橋伴明監督)、『エッシャー通りの赤いポスト』(21/園子温監督)、『ノイズ』(22/廣木隆一監督)、『猫と塩、または砂糖』(22/小松孝監督)、『あの娘は知らない』(22/井樫彩監督)がある。

医師:黒田 大輔Daisuke Kuroda

1977年12月9日、千葉県出身。『La fuosaje ラ・フォサージュ~愛をつく女~』(05/沖田修一監督・前田司郎監督)で映画デビュー。以降、数々の映画やテレビドラマ、舞台で活躍。『恋人たち』(15/橋口亮輔監督)で第30回高崎映画祭最優秀助演男優賞受賞。近年の主な出演作に『さがす』(22/片山慎三監督)、『ハウ』(22/犬童一心監督)、『さかなのこ』(22/沖田修一監督)、『MIRRORLIAR FILMS Season4「シルマシ」』(22/福永壮志監督)、『川っぺりムコリッタ』(22/萩上直子監督)などがある。

Comments
&Reviews

斬新!!
今年の映画祭において、最も驚かされた映画。
なかなかお目にかかれない独特な作品だ。

──ホセ=ルイス・レボルディノス(サンセバスチャン国際映画祭ディレクター・ジェネラル)

『宮松と山下』は独創的で楽しく、興味深い発見に溢れている。
香川照之が、ある種カリスマ的な主人公を演じて見事。
サンセバスチャン国際映画祭で最も驚かさせられた作品のひとつ。

――No es cine todo lo que reluce

『宮松と山下』は、視覚的な驚きを与えながら、
感情や哲学的な考察を引き起こすアイデアにあふれている。

――El Contraplano

ファーストシーンから特別ななにかを持っている。
冒頭から続く虚構世界が好奇心を刺激し興味深い。
現実とフィクションの狭間で監督たちが戯れている。
この映画のアプローチは非常に興味深い。

――berria

主人公を中心とした実存的なコメディ。
その主人公を現代日本映画の顔として知られる香川照之がカリスマ性を持って演じている。
彼の注目に値する存在感が、映画をさらに発展していく。

――Le Polyester

極めてゆっくりと進むデリケートな映画。

――DIRTY MOVIES

生きるためだけの淡々とした年月はそれだけでも意味のあることやったんや。
ラストシーンの主人公の選択は…
過去が自分の今とこれからを作る。
私はやっとこの映画で生き死にいく事が最大の目標と、納得やで。

――綾戸智恵(ジャズシンガー)

あれは もうひとりの自分。
記憶喪失で エキストラ役者からでも 人生はもう一度やり直せる。
表と裏のリバーシブル。
さぁ出番だ。宮松も山下も香川も。

――高田文夫(放送作家)

人間は常に何か演じている、それは意図的であれ無意識であれ。
その人間を桁違いに演技が上手い香川さんが演じている。

そしてその境界は実は本人にもわからないのかも知れない、などと見た後に思ってしまった映画でした。

――澤本嘉光(クリエイティブディレクター、CMプランナー)

純喫茶にたたずむ歓びに似ている。
未知の年輪が運ぶ余白の豊かさ。
記憶喪失者は静かで濃密。
無駄がないのに彫りが深い時空。
それを純・日本映画と呼んでみたい。

――相田冬二(Bleu et Rose/映画批評家)

記憶が戻れば行先が決まる。
寄せ木細工のように虚実の欠片を組みながら、そんな作劇の常道をひっくり返す妙技にうなる。
記憶喪失は、宙吊りの愛にもがく潜在意識が開いたアジール(隠れ場)のよう!

――後藤 岳史(映画ライター、編集者)

人を映すという行為の裏の裏まで明かしたところに一体何が残るのか。
これが、5月の罪深き企みであり、検証である。
虚構の世界がなければ、現実の世界を生きられないのは宮松だけでない、きっと、私たちも。

――金原由佳(映画ジャーナリスト)

(敬称略/順不同)

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