エドワード・ヤンの恋愛時代

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Introduction
ハリウッド・リポーターが『ヤンヤン 夏の想い出』を21世紀の映画ベストワンに選出し、現在第一線で活躍する映画作家たちが口々にその影響力の大きさを語るなど、没後15年以上経っても、その存在感が増し続けるエドワード・ヤン。映画史上に屹立する『牯嶺街少年殺人事件』(1991)の直後1994年に、前作と全く異なるアプローチで現代の台北で生きている男女を描き、エドワード・ヤンのフィルモグラフィの中でも最大の野心作『エドワード・ヤンの恋愛時代』。2022年のヴェネチア国際映画祭で4K版がワールドプレミアされるやいなや、トロント、NY、東京と世界中の映画祭が相次いで上映し、「90年代の台北で描かれるすべてのことは、21世紀の大都市でも起こることだ」(Time Out)と絶賛された、早すぎた傑作が4Kで蘇る。
急速な西洋化と経済発展を遂げる1990年代前半の台北。モーリーが経営する会社の状況は良くなく、彼女と婚約者アキンとの仲もうまくいっていない。親友チチは、モーリーの会社で働いているが、モーリーの仕事ぶりに振り回され、恋人ミンとの関係も雲行きが怪しい。彼女たち二人を主軸としつつ、同級生・恋人・姉妹・同僚など10人の男女の人間関係を二日半という凝縮された時間のなかで描いた本作は、急速な成長を遂げている大都市で生きることで、目的を見失っていた登場人物たちが、自らの求めるものを探してもがき、そして見つけ出していく様を描いている。彼らの姿は、情報の海の中で自らの求めるものを見失いがちな、現代に生きる人々の姿と見事に重なり、初公開当時に正当な評価を受けたとは言い難い『エドワード・ヤンの恋愛時代』が、いかに時代を先取りしていたのかが今こそ明らかになる。
DIRECTOR
監督
エドワード・ヤン
楊徳昌
1947年11月6日中国・上海生まれ。49年に家族と共に台湾へ移り住む。幼少期に『ブラボー砦の脱出』(53)や『地上より永遠に』(53)などのアメリカ映画や手塚治虫の漫画に影響を受ける。69年に国立交通大学を卒業後、アメリカ・フロリダ大学で電気工学修士号を取得。その後、映画研究のため南カリフォルニア大学に留学するも内容に幻滅し、ほどなく退学。その後はワシントンでコンピューター関係の仕事に従事する。80年に台湾に戻ったヤンはユー・ウェチンの依頼で「1905年的冬天」の脚本に参加、映画界へ足を踏み入れることとなる。翌81年に女優・監督のシルヴィア・チャンが企画したTVシリーズ「十一個女人」の一作「浮草」を演出。82年にオムニバス映画『光陰的故事』の一話「指望」で監督デビューを果たし、それまでの台湾映画とは一線を画す作風は話題となり、当時『川の流れに草は青々』(82)が高く評価されていたホウ・シャオシェンらと共に“台湾ニューウェイブ”の代表格となる。83年に「海灘的一天(海辺の一日)」で長編監督デビュー。ホウ・シャオシェンを主演に迎えた『タイペイ・ストーリー』(85)でロカルノ国際映画祭審査員特別賞を受賞、続く『恐怖分子』(86)ではロカルノ国際映画祭銀豹賞、台湾金馬賞最優秀作品賞など多数受賞。BBCが1995年に選出した「21世紀に残したい映画100本」に台湾映画として唯一選ばれ、映画史に残る傑作として知られる『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(91)ののち、自身の製作会社「原子電影(ATOM FILMS)」を設立。舞台劇「如果(Likely Consequence)」(92)、「成長季節」(Period of Growth)」(93)の作・演出を経て、長編5作目となる『エドワード・ヤンの恋愛時代』(94)を発表。『牯嶺街少年殺人事件』のキャストを起用した青春群像劇『カップルズ』(96)、カンヌ国際映画祭監督賞を受賞した『ヤンヤン 夏の想い出』(00)の後、アニメーション作品「追風」を準備中の2007年6月29日、癌の合併症により死去。享年59。
FILMOGRAPHY
1982年
光陰的故事/第2話「指望」
1983年
海灘的一天(海辺の一日)
1985年
タイペイ・ストーリー
1986年
恐怖分子
1991年
牯嶺街少年殺人事件
1994年
エドワード・ヤンの恋愛時代
1996年
カップルズ
2000年
ヤンヤン 夏の想い出
COMMENT/REVIEW
必然的に人間性を失わせるこの社会で、人はいったいどう生きていくのか。
エドワード・ヤンの映画の価値は時間を経ても失われない。
それどころか『エドワード・ヤンの恋愛時代』に含まれる洞察は、
私たちにとってより切実で、必要なものとなっている。
『恋愛時代』は深い絶望の後にしか訪れない希望を描き出す。
希望があるとすれば、互いに動く人と人の出会いと関わりのうちにしかないのだ。
エドワード・ヤンは「どうしたら私たちはこの社会で、他者とともに生きていけるのか」
という問いを決して投げ出さなかった。
彼の映画にいつまでも敬意と愛を抱かずにおれないのは、そのためだ。
濱口竜介(映画監督)
芸術は、めんどくさい。
恋愛はもっともっとめんどくさい。
それでも、いつの時代も人々は情けないほどに愛を求め、
自分の空虚な穴を誰かが埋めてくれないかと喚き散らかしている。
それぞれのやり方で。
色褪せる事のない名作。
玉城ティナ(俳優)
人の人生がはっきりと変わる瞬間が何度も映っている映画で、何度も息をのむ。
夜が暗いからこそ生まれたとしか思えない会話、
隣に座ったからこそ続いた会話、
向き合ってしまったせいで終わった会話。
夜明けの暗がりである人がふと話すのをやめ、
無言で体の向きをぐいと変える瞬間、
すべてが一変する。
二度と元には戻らない。
なにもかもが致命的で革命的で、目が離せない。
不幸な時間も幸福な時間もとりかえしがつかない。
そう感じだすと生きるのが怖くなる。
けれど、それが悦びに変わる瞬間も映っていたと受け止めたい。
三宅唱(映画監督)
都会で若き日を過ごす孤独と高揚は、
この映画の大半を占める「誰かといるのに寂しい」
というシーンに似ているかもしれない。
俗世間で煩悩にまみれるどこにでもいそうな若者たちは、
それぞれに混乱しながら、唯一無二の美しい瞬間を獲得していく。
そうやって紡がれる清々しい真理は、
素晴らしいラストシーンへと繋がり、
観るたびにまたこの世界を信じさせてくれる。
岨手由貴子(映画監督)
どこまでも満たされないし、
こんなにも理解されないのに、
人を愛さずにはいられない。
正直で、不器用で、自分勝手。
そんな登場人物たちを愛さずにはいられない。
尾崎世界観(ミュージシャン)
彼らは人生の中で様々な答えを探そうとした。
しかし、多くのことは意味を持たず、
答えもないかもしれない。
全ての終わりは
“They just had a bad day” だ。
そして、全ての始まりもまた
“They just had a bad day” なのだ。
高姸(イラストレーター・漫画家)
常に満たされたい。
些細なことで落ち込むし浮かれる。
脆いけれど図太い。
そんな私たちが凝縮された作品だ。
だが、どうか普遍という言葉で片付けないでほしい。
私たちと彼らを取り巻く事柄が、
何が今と変わり、何が変わっていないのか。
目をそらさず見つめてほしい。
2023年にこの作品に触れられることに心から感謝したくなった。
吉田恵里香(脚本家・小説家)
幸福でないからといって、不幸とは限らない。
本物でなければ偽物だとも限らない。
私たちはしょっちゅう二項対立の罠に陥る。
でも、大丈夫。
エドワード・ヤンのこの映画が、掻き乱してくれる。
突破口はあると示し、
その先に溢れる光に気づかせてくれる。
温又柔(小説家)
90年代の台北で描かれるすべてのことは、
21世紀の大都市でも起こることだ。
レストアで蘇った映像は
よりタイトで挑発的でさえある。
Time Out
「エドワード・ヤンの恋愛時代」の知性、
ウィットのセンス、観客を過小評価しない姿勢は
現代映画において極めて稀である。
Toronto International Film Festival
(敬称略、順不同)