スノーピアサー
photo チェコのバランドフ・スタジオに組まれた列車のセット。
メガサイズの“ジンバル(軸)”によって『スノーピアサー』はリアルに震え、曲がる!
スノーピアサーとは一体どんな列車なのか。どんなデザインで、どう動くのか。監督とスタッフにとって最優先事項は列車だった。最初の問題は、列車をどのようにデザインし、どう見せるか、そしてどこから撮るか。何しろ映画の99パーセントは、列車の中なのだから。そこで、『グエムル』に登場する怪物をデザインしたチャン・ヒチョルを含む3人のコンセプチュアル・アーティストが、『スノーピアサー』のシナリオ執筆が始まる前から、この問題に取り組んだ。
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後方車両から監獄セクションまで一度に通過する最初の疾走シーンを撮影するためには、少なくとも4両が連結している必要があった。そこで、100メートルに及ぶ、ヨーロッパで最大のセットを有するチェコのバランドフ・スタジオが撮影場所に選ばれた。猛スピードで走る列車のリアルな動きを生み出すため、巨大な“ジンバル”(軸回転装置)が設計され、作られた。ジンバルは、『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『クリムゾン・タイド』で、巨大船や潜水艦の動きをシュミュレートするために作られた装置で、列車「スノーピアサー」のリアルな動きを生み出すために必須だった。
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とはいえ、各車両が30~40トン、総重量120トン、100メートルにわたって走る列車を乗せることができる巨大なジンバルというのは前代未聞。バランドフ・スタジオの特殊効果チームは、ポン・ジュノ監督の青写真に基づいて、各車両の中心下部に特殊なモーターと、動きの頻度や強さを調整できる6つのエア・スプリングがついた巨大ジンバルを作り出した。これによって、スノーピアサーは鉄路の上を走る本物の列車のようにカーブでは蛇のように曲がり、きしみ、はるか遠くまで内部を見通すことが出来、俳優たちは本物の列車に乗っているように感じられたのだった。観客たちも自分も列車に乗っているかのように感じられることだろう。
photo 650メートルの巨大な列車のセットは、“小さな世界”
監獄、給水室、温室、水泳プール、教室、ゲストルーム、そしてエンジン。
主人公カーティスらが向かう先にある、さまざまな用途とコンセプトを持つ各車両は、すべてつなげると500メートルを超える。エンジン部分に隠れ住むウィルフォードという名の“鉄道マニア”の夢から生まれた列車は、極寒の北極から灼熱のアフリカまで、一年で地球を一周する。
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ポン・ジュノ監督は、『グエムル』のプロモーションでオーストラリアを訪れた際、クルーズ船エリザベス号の豪華さに圧倒された。そこでポン監督は、豪華クルーズ船の特徴を一列に並べたような「豪華クルーズ列車」を設計したのである。列車は“ノアの箱舟”の環境を持ち、セクションごとに階層化された乗客を乗せて永遠に走り続ける。
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このためポン・ジュノ監督とプロダクション・デザイナーのオンドレイ・ネクヴァーシルは、それぞれはっきり異なる車両を生み出すという、とてつもない任務に直面した。人口過密と水不足といった過酷な環境にある最後尾車両はスラム街をイメージしたほか、植物で一杯の温室、バーやクラブなど富裕層のための娯楽スペース、ウィルフォードを讃えるよう子どもたちを教育する学校など、イメージはそれぞれ異なる。そして、カーティスが目指す列車の最先端車両は、乗客が崇拝する「永久不滅のエンジン」が持つ無限のオーラを放っていなければならない。
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2005年冬、ポン・ジュノ監督が弘大(ホンデ)にある書店で出会い、その場で全巻を立ち読みしたという原作のフランス・コミック「TRANSPERCENEIGE」に魅せられて8年。ポン・ジュノは、2012年4月16日、チェコのバランドフ・シタジオで、頭の中で思い描いた無限の想像力に、ついに命を吹き込んだのだった。
photo 現場での編集システムとストーリーボードが、
200人の多国籍キャスト&スタッフを指南
『スノーピアサー』の製作期間は1年3カ月に及ぶ。2012年4月16日~7月14日の72日間、チェコでの3カ月にわたる撮影には、韓国、アメリカ、イギリス、チェコなど様々な言語と文化を持つ総勢200名のキャストとスタッフが関わったが、作業はきわめてスムーズに進んだ。当初はコミュニケーションの問題もあったが、ポン・ジュノ監督と共に『スノーピアサー』を作るという意志のもと、共闘しながら解消していった。
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不規則な就業時間、夜を徹しての撮影に慣れたポン・ジュノ監督をはじめとする韓国人スタッフは、一日のうち規定時間以上は働かず重要な場面の撮影にかかっていても決められた昼食時間には撮影をストップするという規則に忠実な欧米スタッフに驚かされた。それとは逆に欧米スタッフは、毎日掲示される詳細なストーリーボード、撮った場面をすぐにモニターできる編集システムに驚いたという。
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ストーリーボードは、専門家によって予め描かれていたものと、翌日撮る分をポン監督が前夜に描いたものが毎日掲出され、キャスト&スタッフ全員がその日にどんな撮影をするのかが一目で分かるアイテムとなった。また、今回の撮影で大いに歓迎されたのは現場での編集システム。『ポロック 2人だけのアトリエ』では監督も務めたエド・ハリスや、ハリウッドでの様々なシステムを経験しているクリス・エヴァンスは、「この方法をハリウッドにも導入しよう!」と話したという。