京都に住む明るく元気な小学6年生、レンコ。父ケンイチが家を出て、母ナズナとの二人暮らしが始まった。ナズナは新生活のための規則を作るが、レンコは変わっていこうとするナズナの気持ちがわからない。離婚届を隠したり、自宅で籠城作戦を決行したり、果てにはかつて家族で訪れた琵琶湖への小旅行を勝手に手配する…。両親の別居に揺れる少女の心が躍動感たっぷりに描かれる。本作でデビューを飾った田畑智子が画面の中を走る、走る、走る――そのまっすぐな瞳に誰もが目を奪われる。
『セーラー服と機関銃』『台風クラブ』などで知られ、没後20年以上が経った今も、現代の日本映画界を支える映画人たちから熱烈に支持され続ける相米慎二監督。この度4Kリマスター修復され、公開となる『お引越し』『夏の庭 The Friends』は、13本の作品キャリアのなかでももっとも成熟した時期につくられたと言われる。昨年の第80回ヴェネチア国際映画祭では『お引越し』がクラシック部門で最優秀復元映画賞を受賞。その後フランスで劇場公開されるや、当初の数館から130館以上に公開拡大する快挙を成し遂げる。また、フランスを代表するル・モンド紙の一面で取り上げられるなど、各メディアから「(日本公開から)30年の時を経て、ついに姿を現した」「青春映画の偉大な作品」と絶賛の声が集まった。『夏の庭 The Friends』も2024年の香港国際映画祭[夏季]で大規模な相米慎二監督特集とともにワールドプレミアを迎え、海外での注目の高まる2作が満を持して日本国内で《凱旋》公開となる。
- 2023年 ヴェネチア国際映画祭 最優秀復元映画賞
- 1993年 カンヌ国際映画祭 ある視点部門上映
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1993年 キネマ旬報ベスト・テン
日本映画2位/助演女優賞/新人女優賞/読選監督賞
- 2024年 香港国際映画祭[夏季]ワールドプレミア上映
- 1994年 毎日映画コンクール 日本映画優秀賞/脚本賞
- 1994年 キネマ旬報ベスト・テン 日本映画5位/脚本賞
木山、河辺、山下の小6トリオは、祖母の葬式に出席した山下の話を聞き、「死」に興味を持ちはじめる。近所に住む一人暮らしのおじいさんがもうすぐ死にそうだ、と聞きつけた3人は、死を見届けるため家を張り込むことに。はじめは少年たちを追い返そうとしたおじいさんも、次第に彼らを受け入れ始める。あるとき、ひとりぼっちのおじいさんのために、3人はある計画を思いつく…。名優・三國連太郎の圧倒的存在感と演技未経験の少年3人の瑞々しい姿がひかる、ひと夏の冒険譚。
相米慎二 (1948-2001)
1948年1月13日、岩手県盛岡市生まれ。
長谷川和彦や曽根中生、寺山修司の下で主にロマンポルノの助監督を務めたのち、『翔んだカップル』(80)で映画監督としてデビュー。
82年6月、長谷川和彦、根岸吉太郎、黒沢清ら若手監督9人による企画・制作会社「ディレクターズ・カンパニー」を設立。
『台風クラブ』(85)は第1回東京国際映画祭[ヤングシネマ]でグランプリを受賞。その後、『お引越し』(93)で芸術選奨文部大臣賞を受賞、第46回カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品。『あ、春』(98)は1999年度キネマ旬報ベスト・テンの第1位に選出されたほか、第49回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した。
2001年、小泉今日子主演の『風花』を発表し、これが遺作となる。9月9日死去。享年53。
Filmography
『翔んだカップル』(80)
『セーラー服と機関銃』(81)
『ションベン・ライダー』(83)
『魚影の群れ』(83)
『ラブホテル』(85)
『台風クラブ』(85)
『雪の断章~情熱~』(85)
『光る女』(87)
『東京上空いらっしゃいませ』(90)
『お引越し』(93)
『夏の庭 The Friends』(94)
『あ、春』(98)
『風花』(01)
同世代のエドワードヤン、侯孝賢、北野武に比肩する映画作家として、
相米慎二という名前は、今まさに再発見されるべきだ。
――是枝裕和(映画監督)
相米慎二監督作品には、どの映画にも、驚くべき身体が映り、声が響いている。
そう、驚くのだ。何度でも、何度でも。
――濱口竜介(映画監督)
映画全体に張り詰める緊張感は観ているこちらを心地良く疲れさせ、
身体に残った残像で、再度映画を自分の中で構築する事の出来る “相米映画” は
映画でしか出来ない何かで満たされている。
だから、この二作品を観て何も感じない人は
別に映画じゃなくてもいい人たちなのだと思う。
――山下敦弘(映画監督)
いつまでも夏の映画にこだわってしまうのは、
相米慎二監督の切り取る一瞬に憧憬しているからかもしれない。
制御できない暑さの中で、制御されたフレームの中で、
奇跡のような瞬間が訪れる。
『夏の庭 The Friends』ではスイカを食べながら大雨が降りだし、
『お引越し』では軽トラを追いかけて手を伸ばして追いつく。
少年少女の一瞬をたおやかに切り取り、映画は永遠に残る。
猛烈なスピードで物語が消費されていくこの時代に、
相米監督ならどんな映画を作りますか。
――松居大悟(映画監督)
相⽶さんの映画は、⼈が、
特にこどもたちが⽣き⽣きしていて、それが好きです。
「夏の庭」が特に好き。
このまえ鶴瓶さんにお会いした時に聞いた
相⽶さんの話がとってもすてきでした。
――今泉力哉(映画監督)
相米慎二の映画は役者の映画だ。
三國連太郎とか桜田淳子とか田畑智子とか、尋常ではない。
凄まじい映画表現の嵐を、役者という存在が常に凌駕している。
生きていることそのものが映っている。それにひたすら感動する。
――森井勇佑(映画監督)
立川談志さんが『ションベン・ライダー』をご覧になったときの
言葉だったと思うのですが、
「この監督は必死になってなにかを
つかもうとしているような気がする」というような感想を
何かの本の中でおっしゃっていました。
僕には相米慎二監督の作品を語れるような言葉がないので、
人の言葉をお借りしてしまいますが、
相米監督の映画はすべてが本当にそうだと思います。
――足立紳(脚本家・映画監督)
映画というパレットに描く監督の手先がこれほどまでに見えるのに、
風や光や湿度がそこにあったと思えるのはどうしてなのだろう。
相米慎二監督の作品は、目線よりも、記憶に近い。
――清原惟(映画監督・映像作家)
夏の庭 The Friends
容赦のない雨に、思わず笑みがこぼれる。
普遍的な哀愁と、エキセントリックな描写を両立する、
相米映画の魔術。
少年たちのひと夏が、時を経ても色あせずに咲き誇っていた。
――小川紗良(文筆家・映像作家・俳優)
草を引っこ抜く。土が浮き、立ち上がる香り。
画面いっぱいの黄金の日差し、乾いた土を濡らす雨。
自然っていい、いや、手入れだからいい。
人と人とに手を入れる神秘の夏でした。
――玉置周啓(MONO NO AWARE)
あの少年たちの瑞々しい躍動感よ!
相米慎二監督の金字塔でありながら、
大震災直前の神戸の姿が残された貴重なフィルムでもある。
そして、篠田昇氏による奇跡のショットの数々、
何より三分間の長回しに目を見張った。
思わず心にある「夏の庭」を探しに行きたくなった。
――濱田英明(写真家)
映画の撮影中、花火大会があり、スタッフ・キャストは見学に。
でも、三國連太郎さんは「花火の音は戦争中を思い出して苦手なんです」と部屋に戻られた。
夏休みの撮影中、三國さんは3人の子供たちに戦争の話をすることもあった。
映画の中の傳法喜八の語る言葉には、その時代を知る演者の真実がこもっている。
――金原由佳(映画ジャーナリスト)
お引越し
相米慎二の『お引越し』は傑作だといわねばならない。
――蓮實重彦(映画評論家)
あの破天荒な相米監督が、ここまで完成した破綻のない作品をつくれるとは。
――黒沢清(映画監督)
相米映画の子ども達には職業俳優からは
こぼれ落ちてしまう心と身体の躍動があります。
物語も演出もカメラもこの子ども達の後を
追いかけるしかないのです。
――中島歩(俳優)
こんなにもしなやかな心で、自由に迷いながら、
ただじっと世界を見つめる。
そんなレンコは、大人より大人だ。
4Kリマスター版公開、おめでとうございます。
――尾崎世界観(クリープハイプ)
大学の図書室で初めて相米作品と出会い、
この映画を小さな画面でかぶりつくように見た記憶は今でも鮮明に残っています。
4Kで鮮やかに蘇った世界はあまりにも眩しく、
映画が持つ神秘的なエネルギーで心臓を鷲掴みにされます。
レンコの表情、一挙一動全ての躍動感がブラッシュアップされ、
鮮烈な思い出が更に色濃く塗り替えられました。
私も映画を信じたい。
そう改めて思わせてくれる、かけがえのない一作です。
――中田クルミ(俳優)
ほかに類を見ない作家
――Le monde
日本映画界の先駆者
――La cinémathèque française
相米監督に、西洋が追いつくべき時が来ている
――CriterionDaily.
大胆で幻想的
――Metrograph