監督インタビュー

―『女は二度決断する』はどのように生まれたのでしょうか。

NSU(National Socialist Underground/独名 National-sozialistischer Untergrund 国家社会主義地下組織)による連続テロ殺人事件に触発されました。このネオナチグループは2000~07年の間に、ドイツ全土で人種差別から外国人を排斥する目的で連続殺人事件を起こし、11年にようやく逮捕されました。トルコに出自を持つ私はこの事件にとても衝撃を受けました。ハンブルクで犠牲になった人の中には私の兄の知り合いもいました。ドラッグやギャンブル絡みの内部抗争を疑い、警察が被害者周辺ばかりに捜査を集中させ、後にそれが大きなスキャンダルとなりました。マスコミもそのコミュニティの人々でさえも、内部抗争が原因であると信じてしまっていたのです。

―主人公のカティヤを突き動かした原動力はなんでしょうか。

私は“復讐”について深く考えました。“復讐心”とは存在するのか? 報復を求めるのはどういう人か? 自分ならば復讐するか? カティヤは私たちの内側で本来ならば眠ったままであるべき“何か”を体現しています。加害者の視点は必要ありませんでした。どこに感情移入するのか、どこを集中して見せるのか、とてもクリアだったのです。私にとって、『女は二度決断する』は非常に私的な映画です。主人公は金髪で青い目をしたドイツ人女性ですが、カティヤは私の分身なのです。この映画は、普遍的な悲しみの感情についての映画であり、かつ非常に多層的でもあります。

―共同脚本のハーク・ボームはどのように『女は二度決断する』に影響を与えましたか。

早い段階からハーク・ボームは本作に参加しました。実は彼は弁護士でもあるのです。裁判や法律に関するものがこの映画の多くを占めているため、彼にはかなり助けられました。私たちはNSU事件について調べ、13年の裁判も追いました。ハークと意見を交わしながら脚本を書きあげ、彼は裁判シーンの監修をしてくれました。

―ダイアン・クルーガーをキャスティングした経緯をお聞かせください。

2012年のカンヌでダイアン・クルーガーに会いました。カンヌ国際映画祭で『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』が上映され、小さなビーチパーティーを開いていたときに、ダイアンがドイツ語で私に話しかけてきたんです。彼女は私に、機会があれば私の映画に出演したいと言ってくれました。私は喜んで約束し、4年後にその時が来たのです。『女は二度決断する』の主演女優を探しているときに、ダイアンを思い浮かべ、彼女に脚本を送りました。そして、まったく見事に彼女は演じ切ってくれました。
勇敢で好奇心が旺盛なところが、ダイアンが偉大な女優である所以です。彼女は何にでも挑戦します。また、彼女の集中力は素晴らしい。どんな辛いシーンであっても、彼女は演技を楽しんでいると私は確信しました。また、ダイアンがこんなにも並外れたパフォーマンスを発揮できたのは、ハノーバーで育ち自身をドイツ人だと認識している彼女が、国際的なスターとして活躍しながらも、ドイツ語を話す役を何年も待っていたからだとも私は思っています。ダイアンは母国語での演技を本当に楽しんでいました。いつもの英語やフランス語を話す役柄に比べて、彼女は自分が育った言語で、より自由に自身を表現する機会を得たのです。撮影中、何かが違う時、彼女はそれにすぐに気づく正確な直感とセンスがありました。そのため、私はいつもそういった時には彼女の意見をしっかり聞くようにしていましたね。

―クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(QOTSA)のジョシュ・オムとのコラボレーションについて教えてください。

脚本を書くときに、QOTSAをよく聴いていました。彼らの曲には運命を決定づけるような曲がいくつかあります。そこで、カティヤのキャラクター用に、QOTSAのプレイリストを作り、それらの曲の権利をクリアにしてほしいと音楽スーパーバイザーに頼んだところ、彼女は私が直接依頼してはどうかと提案してきました。そこで、私は、リードヴォーカルのジョシュ・オムと話す機会を得て、映画のラフカットを観てもらったところ、非常に気に入ってくれたのです! おそらく、彼の曲と通じるものがあったのでしょう。彼はQOTSAのニューアルバムの仕上げで忙しい時期でしたが、素晴らしい音楽を作ってくれました。とてもユニークで悲しくて、そして美しい曲でした。私は常にサスペンス的な要素がある映画をやりたいと思っていました。彼の音楽と融合することで、そういった質感を映画に与えてくれたと思います。