STORY

砕かれた愛、癒えぬ悲しみ。この魂が私を突き動かす。

ドイツ、ハンブルク。

生粋のドイツ人のカティヤとトルコ系移民のヌーリはカティヤの学生時代に出会った。結婚後、ヌーリはトルコ人街で在住外国人相手にコンサルタント会社を始め、カティヤは経理を担当。
愛息ロッコは6歳。カティヤは機械に強く、壊れたラジコンを直して、ロッコが喜ぶ、そんなささやかだけれど幸せな日々を送っていた。


ヌーリの事務所にロッコを預けた。親友のビルギットとスパに行くのだ。車を借りようとすると、ヌーリは渋い顔。「ビルギットは妊婦だ。いたわらなきゃ」と言うロッコ。人想いの良い子に育った。私たちの自慢の息子。

事務所の前で自転車に鍵を掛けずに歩き出す女がいた。
「カギは? 盗まれるわよ」「すぐ戻るの」

夕方に帰ってくると、ヌーリの事務所付近にパトカーが止まり、人だかりが出来ている。鼓動が早まる。何があったの?
「爆発事故です」
思わず駆け出した先に、目に入ったのは焼け焦げた瓦礫の山。
案内された救護所にヌーリとロッコの姿は見つからない。

どのくらい時間が経ったのか、DNA鑑定を終えた捜査官がやってきた。
「悲しいお知らせです……犠牲者はご主人とご子息でした」
家族が泣き崩れる声が響く。
そんなこと信じられない!

警察からヌーリについて質問を受ける。
熱心なイスラム信者だったか? クルド人か? 政治活動は? 敵は?
まるで容疑者への尋問。
警察は外国人であるヌーリが闇社会と繋がっていて、そのために狙われたと考えているようだ。
違う。
外国人が多く行き交うあの街で白昼に爆弾が爆発するのは、ネオナチによるテロだ。
「女が自転車をすぐ前に停めてたわ。カギをかけるように言ったの。荷台にボックスが載ってた」

ネオナチの夫婦である容疑者が逮捕され、裁判が始まる。
絶対に法の裁きを受けさせてやる。

しかし、アリバイを証言するものが現れ、物証も曖昧となり、私の目撃証言も受け入れられない。
このまま、裁判は終了してしまうのだろうか。
許せない。

ふたりは苦しんだだろうか。ロッコは怖かっただろう。痛かっただろう。なぜ私はそばにいなかったのか。家族を守ることが出来なかった。一緒に死ねなかった。
繰り返すのは後悔の念。

最愛の家族を奪われたとき、受け入れることなんてできない。
この悲しみが癒える日は来ない。
私は私のやり方で、この苦しみの日々を終わらせる――。