◆イントロダクション◆

ベルリン国際映画祭グランプリ『愛より強く』、カンヌ国際映画祭脚本賞『そして、私たちは愛に帰る』、ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞・ヤングシネマ賞をW受賞した『ソウル・キッチン』。世界三大映画祭を30代にして制覇したファティ・アキン監督の最新ドキュメンタリーは、彼のルーツであるトルコの小さな村の“ゴミ騒動”。

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2005年、在ドイツ・トルコ移民であるファティ・アキンは祖父母の故郷であるトルコ北東部の黒海沿岸に位置するトラブゾン地域の村チャンブルヌを初めて訪れた。「ここは天国だ!」とそのあまりにも美しい風景に感動を覚えたが、同時にそこにはゴミ処理場の建設が予定されていると知り強い衝撃を受ける。そして、この愛すべき自然を記録に残したいと『そして、私たちは愛に帰る』の印象的なラストシーンをチャンブルヌで撮影。さらにこの事実を記録しなければという使命感にかられ、地元の写真家の協力も得て撮影を敢行する。普通のビニールシートで土への汚染を防ごうとしたり、素人が見ても溢れてしまうとわかるほど、小さな汚水処理槽を作ったり、あまりにも「ずさん」過ぎる政府の計画に呆れながらも、時折り視察にやって来る役人たちに立ち向かってゆく住民の姿を、足掛け5年に渡り撮りためる。集まった膨大な映像をもとに、茶畑があふれる美しい村が汚されてゆく過程と、そこに住む人々の悩みや苦しみを浮き彫りにする渾身のプロテスト・ドキュメンタリーが誕生した。

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本作は才能あふれる映画監督ファティ・アキンが、故郷の現状を世界に訴えたいという一心で完成させた非常にパーソナルな作品である。しかし、この遠い国トルコの小さな村の騒動を観ているうちに、決して他人事ではないことに気づかされる。中央の論理・利便が優先され、地方がそのしわ寄せを受ける構図は、いまの日本と同じではないだろうか?それは、そこに映っているのが、ファティ・アキンが住民に心も寄り添って拾いあげた本物の「声」だからだ。それは「もうこの土地には住むことはできない」「昔は緑が豊かな土地だった」「若者が村を離れてゆく」など、私たちが生活の中でTVニュースなどを通じて聞いている「声」と同じ悩みだ。そしてまた、そこに生きる人たちの逞しさも同じである。時にユーモアを交えながらこの騒動をやさしく見守るファティ・アキンは、食べて、働いて、歌って、家族を守り、生き抜くために戦う、彼らの日常生活は私たちと変わらないと教えてくれる。

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