INTRODUCTION

性と暴力。人間の奥底に潜む深い深い闇があぶりだされてゆく――昭和の匂い、文学の薫りただよう「本物の映画」

世界的映画監督・青山真治×芥川賞作家・田中慎弥、奇跡&衝撃のコラボレーション
「原作もの」を超越した、脚本家・荒井晴彦によるオリジナルエンディング

『EUREKA ユリイカ』でカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞、『東京公園』でロカルノ国際映画祭金豹賞審査員特別賞を受賞し、日本を代表する映画監督として世界的評価の高い青山真治。彼の最新作は第146回芥川賞を受賞した田中慎弥の同名原作を映画化する衝撃作『共喰い』だ。
劇場用映画デビュー作『Helpless』から『EUREKA』、『サッド ヴァケイション』に至る「北九州サーガ」3部作で、青山真治は北九州の街を舞台に、濃密な血と暴力の物語を映し出した。海峡一つ隔てた下関を舞台に、血と性の物語を鮮烈に描き出す田中慎弥の原作は、まるで合わせ鏡のようにして両者に共通する世界観を浮き彫りにする。
脚本は、『赫い髪の女』から『大鹿村騒動記』まで、日本の映画史に残る傑作を数多く手掛けてきた荒井晴彦。人間の奥底に潜む深い闇をあぶりだす濃厚な物語にオリジナルのエンディングを用意し、人気小説を映画化する凡百の「原作もの」を超越した、奇跡のコラボレーションが実現している。
映画化の決定に際し、原作者の田中慎弥はこうコメントして話題を呼んだ。「小説の『共喰い』こそが一番だと私は思っています。映画に携わる人たちは、『共喰い』は映画のための物語じゃないか、と考えていることでしょう。勝負です」だが、完成した作品を観た彼は映画の出来を手放しで絶賛している。性描写など数々のタブーにも挑んだ、近年まれに見る本物の映画がここに誕生した。

人間の欲望があぶりだされる濃厚なストーリー。
欲望をむきだしにする男たちと、本音を包み隠してしたたかに生きる女たち

昭和63年、山口県下関市。「川辺」と呼ばれる場所で、17歳の遠馬は父とその愛人と暮らしていた。父には「セックスの時に女を殴る」という暴力的な性癖がある。そのため、産みの母は遠馬が生まれてすぐ、彼を置いて家から出ていった。粗暴な父を疎んで生きてきた遠馬。だが、彼は幼なじみの彼女・千種と何度も交わるうちにやがて自覚していく。自分にも確かに父と同じ忌まわしい血が流れていることを――。
人間の根源にある性と暴力をあぶり出しながら、作品は格調高く、そこに豊饒な物語を現出させる。ストーリーの核にあるのは、血の宿命に囚われた父と息子の相克のドラマ。だが一方で、そんな男たちを尻目に凛々しくしたたかに生きる女たちの姿が、映画に前向きで清新な余韻すら与えている。昭和の後にやって来る女性の時代を予感させる物語は、「女性讃歌」を謳いあげた「北九州サーガ」に連なる、青山真治の正統な作品として位置付けられるのかもしれない。

いま最も注目を集める若手俳優・菅田将暉、渾身の主演最新作。
名優・田中裕子&光石研の重厚な演技、若手女優らの瑞々しさ溢れる力演

主人公の遠馬を演じたのは、「仮面ライダーW」で史上最年少の仮面ライダーとしてデビューし、ドラマ「泣くな、はらちゃん」「35歳の高校生」や映画『王様とボク』で注目を集める菅田将暉。性に葛藤し血に苦悩する高校生の心情を鮮やかに表現し、日本映画の将来を担う俳優として、その類まれな存在感をまざまざと見せつけている。
遠馬の父、円に扮するのは『Helpless』以来、青山作品の常連として味わい深い演技を披露してきた光石研。母の仁子にはドラマ「蒼穹の昴」や映画『いつか読書する日』の田中裕子が扮し、圧倒的な芝居で観客を魅了する。また、遠馬の恋人である千種を演じた木下美咲、父の愛人である琴子を演じた篠原友希子、二人の若手女優は濡れ場にも大胆に挑戦し、その瑞々しさ溢れる演技で観る者に強烈な印象を残すだろう。

©田中慎弥/集英社・2013 『共喰い』製作委員会