『忘れられぬ人々』に寄せられたコメント(順不同)

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*戦争の心の傷(トラウマ)を抱えた戦友たちの余生を静かに描きながら物語は後半、次第に流速を速めて激流のような破局へと向かう。静と動、再生と破壊 の鮮烈な対比の中に、戦後生き残った(死に損なった)老兵を通して人生の意味を問いかける映画史上の収穫。

森村誠一さん(作家)

*今の日本にも、矍鑠(かくしゃく)たる男たちはいた。本当の骨太な生き方とは何か、矍鑠たる名優たちが、真摯に問いかけてくる。

森本毅郎さん(キャスター)

*現代に失われたものを求めようというものではない。奪い返そうという強烈なテーマに貫かれた作品を、ベテラン俳優諸兄姉と若き監督が見事に描き切った。

藤本義一さん(作家)

*日本映画の黄金期を支えた名優たちの〈現在〉を観ることができて本当に嬉しかった。と同時に、ジェネレーションを越えた人と人とのつながりの大切さをあらためて感じた。

野中柊さん(作家)

*忘れるべきこと、覚えておかなければならないこと。それをきちんと見極めて、生きていかなければならない。スクリーンいっぱいに広がる青空に、深い郷愁に似た感情を覚えながら、そう思った。

狗飼恭子さん(作家)

*小津のほのぼのさにジョン・カーペンターの心意気を加えてみた。そしたらこうなった!まるでそれは・・・ペキンパーだっ!見たとたん、私は早くもこれを本年度ベスト・ワンにすると決めた。

黒沢清さん(映画監督)

*切って血の出そうな映画というのがある。鉈でも振るわなければ切れそうもない強靭な映画もあるし、最初から生傷だらけで血が滲んでいそうな映画もある。『忘れられぬ人々』は、そう、料理中に過って包丁で指先をスパッと切ってしまったような映画である。しまった、と思い、思わず傷口を吸ってふと離れて暮らす肉親に思いを馳せる、そんな気にさせる映画である。こうした映画は現在、私の知る限り篠崎誠以外に作れる人はいない。

青山真治さん(映画監督)

*この映画には昨今珍しい「巨悪」が出現する。そこで語られるのは、まさにスタヴローギンかイワン・カラマーゾフのごとき虚無の倫理だ。で、立ち向かうのは老人。無茶だ。ドフトエフスキーがゾシマとアリョーシャのツー・トップでかろうじて立ち向かい得たことを、老人たちにやらせようとしているのだ。何という暗黒劇だろうか。

高橋洋さん(「リング」シリーズ脚本家)

*こういう日本映画は初めて見ました。日本映画というよりも、アメリカ映画の西部劇を見ているような感じがしました。

熊切和嘉(映画監督)

*これほど気負いのない演出で、老人たちの男意気をさらりと描いた映画があったのだろうか。去りゆくものへの詠嘆。坂の上の薄青い空に融けて込んで行く老人たちの後姿が印象的だ。 年をとるのもあんがい悪くないものだなと思った。

谷口ジロー(漫画家)

*最初と最後でまるっきり印象の違う展開になってしまう映画だが、面白く観た。旬の俳優プラス、意表をついたキャスティング(そこがセンスの見せドコロのごとく)と間のとり方で一丁上がり、みたいなモノが多いような気がする昨今の若い世代の日本映画の中にあって、往年の名優たちを主人公に据えて真正面から撮っているのが、何よりも素晴らしい。

江口寿史さん(漫画家)

*確かな価値観を手にすることのできない人たちの営みを描くことで、僕らの世代なりに問い続けていこうという覚悟をこの映画からは強く感じる。

是枝裕和さん(映画監督)

*下町出身のオレにとって、この映画はたまらないネ! コンピューター化された今の時代に、絶滅寸前な“人々”が不器用なりに逞しく生きている。そこには、男同志の絆、情、そして少年ぽい純粋さが存在してるんだ。感動のラストシーン…。“忘れられぬ”映画になることは間違いない!

寺島進(俳優)

*老優(といっては失礼だろうけど)方の飄々とした演技が実に魅力的。黙して語らずの登場人物たちのふと覗かせる内面に、同年代の親を思って心がふるえた。

吉本由美さん(執筆業)