監督

監督/共同脚本/編集
ヌリ・ビルゲ・ジェイラン Nuri Bilge Ceylan

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

1959年1月26日、イスタンブール生まれ。1976年にイスタンブール工科大に入学し、化学工学を専攻するが、当時、大学は政治的、社会的動乱の中にあり、講義は常にボイコットや政治的対立などによって妨害され、休講となったため学業はままならなかった。1978年に改めてボアズィチ大学に入学し、電気工学を専攻する。
1993年、最初の短編「Koza(英題:Cocoon)」の撮影を開始。この作品は1995年の第48回カンヌ国際映画祭に選出された初めてのトルコの短編映画となった。
「カサバー町(英題:The Small Town)」(97)で長編デビュー。第48回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品され、カリガリ賞を受賞。「五月の雲(英題:Clouds of May)」(99)は、第50回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、「カサバー町」からの「地方3部作」の最終章、「冬の街(英題:Distant)」(03)で、第56回カンヌ国際映画祭グランプリと主演男優賞を受賞し、国際的な知名度を上げる。同作はカンヌ以後も国際映画祭を巡回し、47もの賞を受賞、トルコ映画史上最も高い評価を得た作品となった。
「うつろいの季節(英題:Climates)」(06)は、第59回カンヌ国際映画祭でFIPRESCI 国際批評家連盟賞受賞。「スリー・モンキーズ(英題:Three Monkeys)」(08)では、第61回カンヌ国際映画祭監督賞を、「昔々、アナトリアで(英題:Once Upon A Time In Anatolia )」(11)では、2度目のカンヌ国際映画祭グランプリを受賞。そして、7本目の長編『雪の轍』(15)で、第67回カンヌ国際映画祭パルム・ドール大賞と国際批評家連盟賞を受賞した。
本作は、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、第51回トルコ映画批評家協会賞では、作品賞/監督賞/脚本賞/主演男優賞/助演女優賞/助演男優賞の最多6冠に輝く。
映画監督の他に、写真家としても国際的に活動している。

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

他者と接触するためには、人は安全な洞穴から出て、一定のリスクを負わなければなりません。外へ出過ぎてしまうと、人は自分の原点、アイデンティティを忘れてしまうことがあります。そのことを恐れ過ぎると、外へ出ることを拒み始め、自分自身を抑制し、引きこもり、自身の成長と発展を止めてしまいます。特に、自分自身を構成する個性が社会に否定される場合、その人は否応なく心を傷つけられます。そして、常に社会からの疎外を余儀なくされ、社会の矛盾に苦しみ、その矛盾を創造力に昇華することも、矛盾自体を無視することもできなくなり、行き詰まってしまいます。

この映画は、受け入れ難いことだが、「運命に逆らえない」ことを、「罪悪感」によって知る青年の物語を、彼の周りにいる様々な人々の人間模様と共に、伝えようとしています。
「父親が隠しているものは息子の中で明かされる」ということわざがあります。弱さ、習慣、癖など、人は父親から特定の特性をどうしても受け継いでしまうのです。これは、自分の父親と同じ運命を辿ることを受け入れる青年の物語です。

──監督 ヌリ・ビルゲ・ジェイラン