2014年のヴェネチア――金獅子を受賞したのは、スウェーデンの巨匠ロイ・アンダーソン監督の『さよなら、人類』だった。「ヴェネチア史上最高の映画!」(ポジティブ誌)、「映画史に名を刻む傑作!」(エル・ムンド紙)など、批評家たちから最も支持され、審査員長を務めた作曲家アレクサンドル・デスプラ(『英国王のスピーチ』『グランド・ブダペスト・ホテル』)は、「哲学的で詩的、それでいて人間的作品だ。驚き、感動、衝撃。私たちが求めていたこれら全てを与えてくれたのは『さよなら、人類』だけだった」とコメントし、絶賛を贈った。
面白グッズを売り歩くセールスマンコンビ、サムとヨナタンが物語の中心となり、さまざまな人生を目撃する。サムとヨナタンの目を通して映し出されるのは、人類の現在、人類の過去、人類の未来。時代が移り変わっても、人間の本質はそれほど変わらない。喜びと悲しみ、希望と絶望、ユーモアと恐怖を、哲学的視点をスパイスにしてブラックな笑いに包み込む。人間であるがゆえの愚かさ、滑稽さ、哀愁、脆さを苦みとそこはかとない可笑しみ持って描きだす傑作。観る者は、作品の中に、自分と同じ誰かを見つけ出すに違いない。
監督は、『散歩する惑星』のヒットで日本でも熱狂的なファンを獲得する、スウェーデンが生んだ映画界、CF界の巨匠ロイ・アンダーソン。全39シーンを、固定キャメラ、1シーン1カットで撮影。CG全盛の時代に、ロケーションはなく巨大なスタジオにセットを組み、マットペイントを多用し、膨大な数のエキストラ(馬も)を登場させ、4年の歳月をかけて創り上げた。徹底的に練られた遠近法の構図や配置、細部にまでこだわった配色や美術、エピソードが絡み合う構成、全てのシーンが計算しつくされ、まるでダイナミックで完璧な動く絵画のようである。精巧を極めた壮大なるアナログ巨編――ロイ・アンダーソンの果てしない創造性に、観る者は圧倒されるに違いない。